大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 昭和58年(ワ)830号 判決

原告 住友重機械建機株式会社

右代表者代表取締役 梅本史郎

右訴訟代理人弁護士 米津稜威雄

同 麦田浩一郎

同 長嶋憲一

同 佐貫葉子

被告 徳榮商事株式会社

右代表者代表取締役 春谷四郎

〈被告ほか一名〉

主文

一  被告らは、原告に対し、別紙物件目録記載の建設機械を引き渡せ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文と同旨

二  被告徳栄商事株式会社(以下被告会社という。)

1  原告の被告会社に対する請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙物件目録記載の建設機械(以下本件機械という。)を所有している。

2  被告らは、本件機械を占有している。

よって、原告は、被告らに対し、所有権に基づき本件機械を引き渡すことを求める。

二  請求原因に対する被告会社の認否

1  請求原因1は否認する。

2  同2は認める。

三  被告会社の抗弁

被告会社は、昭和五七年四月一〇日訴外秋山孝三(以下訴外人という。)との間で、貸金二八〇万円の弁済に代えて本件機械の所有権を被告会社に譲渡する旨の契約をして、その引渡しを受けたから、本件機械を即時取得した。

四  抗弁に対する認否

抗弁は争う。

五  再抗弁

被告会社は、訴外人から本件機械の引渡しを受けた際、訴外人が本件機械の所有権を有していないことにつき悪意であったか、仮にそうでなかったとしても少なくとも過失があった。

即ち、本件機械は原告が昭和五六年七月一日訴外人に対し、代金六六三万円、昭和五六年九月から昭和五九年五月までの割賦払、代金完済まで本件機械の所有権は原告に留保する等の約定で売り渡したものである。

建設機械の販売業界においては、建設機械の代金は期間二、三年間の割賦払とされ、また代金が完済されるまで売主に所有権が留保されるのが一般の慣行である。被告会社は建設土木業を営み、建設機械を購入したこともあるので右慣行は充分承知していた。本件機械は、昭和五六年七月に売り渡したものであり、昭和五七年四月においては売り渡して後九か月しか経過しておらず、訴外人において代金を割賦弁済中で、その所有権が原告に留保されていることを充分承知していたものである。

仮に、被告会社がこれを知らなかったとしても、被告会社が本件機械を取得する際、原告に対し照会すれば、訴外人に所有権のないことは容易に知り得たはずであるから、これを怠ったことについて過失がある。

また、建設機械の販売業界では、昭和四六年六月一日から建設機械の製造販売業者が組織する社団法人日本産業機械工業会が「譲渡証明書」の制度を実施している。即ち、右社団法人加盟の建設機械の販売会社は、代金完済時に買主へ所有権移転を証するための右社団法人発行の統一用紙による「譲渡証明書」を交付する。そして、買主が更に建設機械を転売する際には「譲渡証明書」を交付することが要求される。この制度は今日では業界の常識となっている。

被告会社は、訴外人から本件機械の譲渡を受けた際、「譲渡証明書」に留意し、その交付を要求しておれば、訴外人に本件機械の所有権がないことを容易に知り得たはずであるから、これを怠ったことについて過失がある。

六  再抗弁に対する被告会社の認否

再抗弁は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  (請求原因について)

1  《証拠省略》によれば、請求原因1の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  請求原因2の事実は当事者間に争いがない。

二  (抗弁及び再抗弁について)

1  《証拠省略》によれば、本件機械は原告が昭和五六年七月一日訴外人に対し、代金六六三万円、昭和五六年九月から昭和五九年五月まで三三回の割賦払い、原告から訴外人に対する本件機械の所有権の移転は訴外人の原告に対する代金等が完済された後になされるものとする等の約定で売り渡されたこと、訴外人は原告に対し昭和五七年一〇月までに割賦代金のうち金一五七万円の弁済をしたのみでその余の割賦金の支払をしていないことの各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  《証拠省略》によれば、被告会社は昭和五六年七月ころ訴外人に対し金額一三〇万円、満期昭和五六年一〇月三一日の約束手形を割引したが、右手形は満期に決済されなかったこと、そこで被告会社と訴外人とはその後右金一三〇万円の代物弁済として訴外人が被告会社に本件機械の所有権を譲渡する旨の合意をしたが、その際、訴外人は原告に対する本件機械の割賦代金の未払分があったので、この事情を被告会社に説明し、更に被告会社に金額一五〇万円の小切手の割引をしてもらい、その金員を右未払分の支払いに充てる旨合意したこと、しかしながら被告会社は原告に対し本件機械の割賦代金の支払状況及び本件機械の所有権の帰属については何らの確認をしなかったことの各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  《証拠省略》によれば、建設機械の売買においては、その代金は非常に高額なこともあって、二年間ないし三年間の割賦払とされることが通常であり、また建設機械の製造販売業者で組織される社団法人日本産業機械工業会が昭和四六年六月一日から譲渡証明書の制度を実施し、右社団法人加盟の建設機械の販売会社は代金完済時に買主に対し所有権移転を証するための右社団法人発行の譲渡証明書を交付し、買主が更に建設機械の所有権を譲渡する際には譲渡証明書を交付することとされ、この制度は今日では業界の常識となっていることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、《証拠省略》によれば、被告会社は訴外人から本件機械を譲り受けるに際し、訴外人に対し右譲渡証明書の交付を要求しなかったことはもとより訴外人が譲渡証明書を所持しているか否かも確認しなかったことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

4  以上によれば、被告会社が訴外人から本件機械の譲渡を受けた際、同人から原告に対する割賦代金債務の一部が残っていることを知らされたのであるから、被告会社としては原告に対し、本件機械の所有権が訴外人に移転されているかどうかを確認すべきであり、また訴外人に対し譲渡証明書の交付を要求してその所有権の帰属を確認すべきであったところ、被告会社がこれらのいずれをも履践しなかったのであるから、被告会社が本件機械の所有権が訴外人にあると信じたことには過失があったものというほかはない。よって、被告会社が訴外人から本件機械を即時取得したと認めることはできない。

三  被告小林喜美は、民事訴訟法一四〇条三項本文、一項本文により請求原因事実を自白したものとみなす。

四  以上によれば、原告の本訴各請求はいずれも理由があるからこれらを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小見山進)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例